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事業承継





≪目次≫


1.事業承継とは
 1-1.『事業承継』と『事業継承』の違い

2.事業承継は早めの対応が肝心!

3.高齢化に伴う認知症対策

4.事業承継の方法
 4-1.親族内承継とは
 4-2.役員・従業員等承継とは
 4-3.M&Aとは
 4-4.『事業承継』と『M&A』の違い
 4-5.それぞれの準備に必要な時間

5.承継すべき経営資源

6.あらかじめ注意しておきたいこと
 6-1.M&Aによる従業員のリストラの可能性
 6-2.M&Aによる社名変更の可能性
 6-3.事業承継に有利な制度

7.事業承継の基本プロセス




1.事業承継とは



事業承継=経営者が会社を後継者に引き継ぐこと


事業承継とは単に会社の経営権や資産の引き継ぎだけでなく、経営者の想い(経営理念)や会社の文化(社風) もあわせて引き継ぐということです。

特に中小企業においては、経営者の手腕や人柄といった部分もその会社の強みや魅力となっているため、 後継者選びは極めて重要事項だと言えるでしょう。

近年、中小企業では経営者の高齢化が進み、後継者への引き継ぎの重要性が増すとともに、 事業を発展させ従業員の雇用継続を確保する必要性が高まってきています。

事業承継がうまくいかないと、会社経営の根幹を揺るがす事態にもなりかねません。


『事業承継』と『事業継承』に違いはある?


『承継』と『継承』はともに同じ漢字で構成されているため、言葉の意味も非常に似通っているところがあります。
  • 承継‥地位や事業、精神などを受け継ぐこと
  • 継承‥身分や権利、義務、財産などを受け継ぐこと
  • 会社の経営を後継者に引き継ぐ際には経営理念やビジョンといった精神性も含めて引き継がれるため、 『事業承継』という呼称の方がより一般的な表現なようです。




    2.事業承継は早めの対応が肝心!

    オーナー経営者が60歳を迎えるころには、事業承継に向けた準備に着手しておきましょう。

    後継者の選定や育成・教育・業務の引き継ぎなど、しっかりとした次世代の基盤を作り上げるには10年程度を要すると言われています。

    2020年3月に中小企業庁が策定した『中小M&Aガイドライン』によると、2025年までに日本全体において、 平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業の経営者は約245万人となり、 その約半数の約127万人が後継者未定と見込まれています。

    後継者問題は実は日本社会全体にとっても深刻な問題なのです。

    (参考: 中小企業庁 『中小M&Aガイドライン -第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-』 )




    3.高齢化に伴う認知症対策

    認知症になってしまうと正しい経営判断を出来なくなってしまうばかりか、 経営者が所有している不動産や自社株の移管も出来なくなってしまう危険性があります。

    まずは経営者が元気なうちに「誰に、いつ、どのように」事業承継をするかの方針を定め、 後継者の確保を含めた準備に早めに取り組むことで円滑な事業承継を目指しましょう。




    4.事業承継の方法

    事業承継の方法は、次の3つがあります。
  • ■親族内承継
  • ■役員・従業員等承継(親族以外)
  • ■M&A(第三者(機関)への承継)

  • それぞれの承継方法について、メリット・デメリットを確認していきましょう。


    4-1.親族内承継とは


    現経営者の親族に承継させる方法で、最もポピュラーな承継方法です。


    ≪親族内承継のメリット≫

    ・内外の関係者から心情的に受け入れられやすい
    ・後継者の早期決定、教育の為の長期の準備期間を確保しやすい
    ・相続等によって財産や株式を移転する事が可能なため、所有と経営の分離を回避しやすい



    ≪親族内承継のデメリット≫

    ・承継する親族に経営者としての資質があるとは限らない
    ・後継者以外の相続人への配慮が必要





    4-2.役員・従業員等承継とは


    「親族以外」の役員・従業員に承継する方法で、近年では親族内承継と同水準程度に採用されている承継方法です。
    自社株をオーナーが保有したまま社長の地位を譲るケースもあります。


    ≪役員・従業員等承継のメリット≫

    ・親族内だけでなく、会社の内外から広く後継者候補を募りやすい
    ・社内で長期間勤務してる従業員の場合、経営方針や実務の引継ぎなど一貫性を保ちやすい



    ≪役員・従業員等承継のデメリット≫

    ・親族内承継以上に、株式取得などの資金力が後継者候補に求められる
    ・従業員のなかに経営者としての資質がある人材がいるとは限らない





    4-3.M&Aとは


    M&Aとは「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略で、文字通り「企業の合併・買収」を意味します。

    適任と思える後継者が見つからない場合などに第三者企業や創業希望者へと株式譲渡・事業譲渡(売却)を行う承継方法で、 近年増加傾向にあります。


    ≪M&Aのメリット≫

    ・身近に適任者がいない場合でも、広く候補者を外部に募ることができる
    ・買収先企業とのシナジー効果や、資金力の増加が期待でき、従業員の雇用を守りやすい
    ・オーナーは会社売却の利益を得る事ができる



    ≪M&Aのデメリット≫

    ・希望の条件を満たす買い手が見つからない可能性がある
    ・従業員の待遇やモチベーションが悪化する恐れがある








    4-4.『事業承継』と『M&A』の違い


    事業承継とM&Aの大きな違いは、「経営権を獲得する目的」にあります。

    事業承継の目的は、その企業を存続させて次の世代へ託すこと、 経営者の若返りを図ったりすることにあります。

    一方で、M&A(買い手企業)の目的は、自社の事業とのシナジー効果や、 市場規模の拡大といった大きな発展性を持たせることにあります。




    4-5.それぞれの準備に必要な時間


    事業承継では、通常5〜10年ほどの期間が必要と言われています。
    後継者への教育や経営課題の改善といった対策が必要となるからです。(中小企業庁「事業承継ガイドライン」より)

    一方で、M&Aの場合はそういった準備は必要なく、 両者の繁栄に向けて最適なマッチングができれば、比較的早期に承継が完了できます。




    5.承継すべき経営資源

    後継者に承継すべき経営資源として、次の3つの要素が挙げられます。

  • ■人の承継
  • ■知的資産の承継
  • ■資産の承継


  • ■人の承継とは


    「経営権」の承継を指します。

    特に中堅・中小企業においては経営者個人にノウハウや取引関係が集中しているため、 後継者の資質によってその後の業績や運営方針が大きく左右されます。

    親族内承継や親族外承継では後継者候補の教育に時間を割く必要があるため、 後継者候補選びにはできる限り早期に取り組みましょう。


    ■知的資産の承継とは


    知的資産とは、「会社の強み」の承継を指します。

    例えば人材・従業員のスキル・事業のノウハウ・知的財産(特許・ブランドなど)・組織力・経営理念・ 顧客ネットワークなどが挙げられます。

    正しく承継するために、自社の強みがどこにあるのかを正しく分析し、後継者に共有する必要があります。


    ■資産の承継とは


    事業を継続していくための資金や事業用資産の承継を指します。

    現経営者が所有する株式・不動産・工場などの設備・備品・運転資金・借入などが挙げられます。

    経営権確保のための株式移転も含め、承継のタイミング・方法次第で税負担が大きく変わるため、 承継時期の見極には十分な検討が必要となります。




    6.あらかじめ注意しておきたいこと

    事業承継・M&Aを検討する際には、次のような点に考慮しておきましょう。




    @後継者になりたい親族がいない場合もある


    以前に比べ職業の幅は格段に広がり、価値観も多様化しています。

    親族内承継では子が後継者となるケースが多いですが、後継者本人の職業選択の自由を無視してしまったがために、 最終的に本人も従業員も幸せにならない結果となってしまう、といった事態も想定できます。

    後継者選びの際には、経営者としての資質はもちろん重要ですが、本人の意欲もしっかりと確認しておきましょう。


    A後継者以外の相続人への配慮が必要


    特に後継者候補が複数人いる場合に、後継者以外への配慮は非常に大切です。

    例えば後継者が長男で、他に兄弟姉妹がいた場合、「経営権や自社株式を長男が承継し、 そのうえ先々の相続で他の財産もすべ相続されたら、、」と懸念することは想像に難くないでしょう。

    将来の争いの芽を早めに摘むためにも、事業承継の際には自身の将来の相続対策も併せて検討しておくことが重要です。


    B社内で権力争いが起こる可能性


    社内に後継者を求める場合、派閥や権力闘争の可能性に十分注意しましょう。

    事業承継の結果、社内の空気が不穏になり業務に支障が出るようになってしまっては元も子もありません。

    状況の改善が難しい場合は、社外から第三者の後継者を募ったり、M&Aという選択肢も検討しましょう。


    C希望条件を満たす売却先を見つけるのが難しい


    近年、M&Aを選択する企業が増えており、その分、買い手市場になっている面も否めません。

    従業員の雇用条件の確保・売却益の確保を適正に行うためには、本業の強化や内部統制の体制を再構築し、 企業価値を高めておく必要があります。



    6-1.M&Aによる従業員のリストラの可能性


    一般的な友好的M&Aについては、従業員の雇用の継続や待遇の維持といった項目がM&A契約書に盛り込まれます。

    また買い手側企業としても、新たな従業員の雇用・育成へのコストを考えれば、 ノウハウのある従業員に辞められると困る、と考えているケースが大半のようです。


    6-2.M&Aによる社名変更の可能性


    買い手の意向によりますが、中小企業においては、基本的に社名変更するケースは少ないようです。

    どうしても変更したくない場合、社名をのこす事をM&A契約書に条件として記載することもできますし、 社名変更によって売上が減少する可能性、事務手続きの増加のデメリットもあるため、 社名を変更しないケースが多いようです。


    6-3.事業承継に有利な制度


    中小企業の事業承継を早期に実施するという課題から、『事業承継税制』が創設されています。

    後継者が事業用資産や株式などを先代から相続や贈与で譲り受けた際に、一定の要件のもとで納税を猶予できる制度です。

    適用を受けるにあたり、『中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律』に基づく認定が必要となります。

    詳細は下記よりご参照ください。

    ・法人版事業承継税制(国税庁ホームページ)

    ・個人版事業承継税制(国税庁ホームページ)




    7.事業承継の基本プロセス

    事業承継には決まった方式というものはありません。
    ですが、押さえておきたい一般的な基本プロセスは存在します。

    大きく分けて次のように進めていきましょう。




    1.事業承継準備の必要性の認識

    会社の将来を見据え、着実に準備を進めていきましょう。


    2.経営状況・経営課題の把握

    自社の強み・弱みや、組織体制を客観的に見直し、現状を正しく把握しましょう。


    3.事業承継に向けた経営改善

    明確化された経営課題を踏まえ、後継者に引き継ぐまでの事業の維持・発展に向けて経営改善に取り組みましょう。


    4.事業承継計画の策定

    ≪親族内承継、役員・従業員等承継の場合≫
    会社の10年後を見据え、『いつ・どのように・なにを・誰に』承継するのか、 具体的な計画を策定し、事業承継計画書にまとめましょう。

    ≪M&Aの場合≫
    後継者候補(買い手)とのマッチングに移行するため信頼できる仲介機関を選定し、 条件に合う後継者を探しましょう。


    5.事業承継の実行

    1〜4を踏まえ、経営課題の解消・経営改善に取り組みつつ、事業承継計画・M&A手続きに従って 資産の移転や経営権の譲渡を実行しましょう。

    (参考: 中小企業庁 『事業承継に関する主な支援策(一覧)』 )